ボッティチェリを代表する作品。ヴィーナスの左側にはマーキュリーと三美伸、右側には春の女神プリマベーラと花の女神フローラが描かれています。
右端には西風のゼフュロスがいる。頬をふくらませ、青い顔をして、西風を吹かせ、春を運ぶ神である。
ゼフュロスが抱きつこうとしているのはニンフのクロリスである。ゼフュロスはクロリスに恋してしまったのである。二人は結婚する。
クロリスの口元から、花があふれ出てきている。クロリスは、ゼフュロスの手が触れると、フローラという花の女神に変身する。
フローラへの変身の途中である。そして、クロリスの左隣には、変身し終わった女神フローラが、今にも足を踏み出そうとしている。
ゼフュロスはフローラに花園を与える。「春」の到来である。
左側の三人の女性は「三美神」である。左の女神は「愛欲」、中央は「純潔」、右が「愛」の女神である。
左の「愛欲」と中央の「純潔」は、互いに見つめあい、対立しあっている。右の「愛」が二人の仲を取り持っているのである。
「愛欲」と「純潔」のあい反する性質を、「愛」で統一しているのである。
キューピッド(エロス)は目隠しをしているが、狙いを定めている場所は、「純潔」の頭上である。この目隠しが、愛の不確かさや、愛の負の部分を暗示している。
左端には神の使いであるマーキュリー(ヘルメス)がいる。右端のゼフュロスが暖かな愛の風を吹かし、神の世界に春をもたらすのに対し、マーキュリーがいることで人間と神の間に道を作ってくれて、人間界にも春の訪れを告げてくれる。
ヘルメスは上を向いて、頭上の霧を杖で払っている。理性の神でもあるヘルメスは、霊魂を曇らせる情念の闇を取り払っている、とも考えられる。
作品の題名は『春』であるが、内容は「愛の賛歌」的である。